チーズケーキ1個274円

脳みそぐちゃぐちゃお花畑になってしまった。私のお花畑には何が咲いてるんだろう。脳に悪い影響のある花なら摘まないといけないな。根絶やしにしないと。

……まで書いていたけれど、チーズケーキを5つ食べたら脳みそがマシになってきた。名誉のために補足すると、5つとも違う味のとてもおいしいチーズケーキである。

よく考えてみたら昨日の昼から何も食べていなかった。それにお薬だって丸2日飲めていなかった。きちんと眠れていなかったし、もうすぐ体内から血が出るかもしれないのだった。こういうのを1つ1つ丁寧につぶして初めて頭の中がぐちゃぐちゃか確認しないといけない。それでもぐちゃぐちゃだったら、もう脳みそを洗うしかない。

まずは髪の生え際のところに軽く力を入れて頭蓋をパカッと外す。結構簡単に取れるから心配しなくていい。中から脳みそを静かに取り出して、水を張った洗面器に入れる。脳みそは赤い液体にまみれて全体的にヌルヌルしている。なんだ、こんなに汚れていたんだ。じゃあ私がこんがらがってダメになっていたのもしょうがないな。

手で水をかけながら優しく洗っていく。洗剤は脳みそに合わない時が怖いから使わない。スポンジも脳みそを傷つけるのが怖いから使わない。シワのところは汚れやすいから特に念入りに洗う。念入りに洗うけれど、どうしても洗いにくいところの汚れは残ってしまうんだろう。洗車みたいに、機械で脳みそを洗ってもらえたらと思わないこともない。だけどさすがに怖くて一生手が出せないと思う。

一通り洗い終えたら清潔なタオルで水気を取る。あとは脳みそを静かに元の場所に戻して頭蓋をつけるだけ。お疲れ様でした。

脳みそがきれいになったところで、私程度の脳みそで考えられることはたかが知れている。それでもきれいになった脳みそで考えるのは気持ちがいい。私の脳内はお花畑だけどきっと素敵なお花畑だよ。

ノット・ラブレター

私は君(もしくは君たち)のことがもはや、結構、そんなに、そこそこ好きではない。大嫌いとかではなくて、文字通りそこそこ好きではないのだ。何かきっかけがあったわけでもなく、ある日ふと君のことを「もういいや」と思ってしまった。生きているにんげんに対して「もういいや」も何もないのだけれど、そう思ってしまったからにはそこまでなのである。

「もういいや」と思ったあの日から、私は君の存在を小さく小さくする作業をしている。洗濯物の山を畳んでいくみたいに。きっと元々はそんなに大きい存在でもなかったんだけれど、たぶん自分で勝手に大きくしていたんだ。まあ今となってはその作業も手慣れたもので、ふとした瞬間に君の名前が出ても静かに流せるようになってきた。久しぶり、元気そうで何より、どうぞご勝手に。こんなふうに君の中の私もだんだん消えていってくれると嬉しい。私はもはや君に何も知られたくないし思い出してほしくない。私のことは忘れて、もっと楽しいことで頭をいっぱいにするといいと思うよ。

そこそこ好きではない君に向ける言葉って難しいな。君に言うことなんて、あの日に忘れてきてしまってもうあんまり残っていないから。それでも私は君の健康や幸せを祈っている、世界が平和だったらいいよねくらいの気持ちで。もしまた会うことがあれば、一緒にお酒でも飲み交わそう。たぶん来ないだろうその日が来るまで、またね。

愛すべき近況

夜ぐっすりと眠れないのが1年近く続いている。眠りが浅くて、眠ってもすぐに起きてしまうのだ。しかも高確率で悪夢を見る。例えばその日に予定があれば遅刻する夢……といった感じで、懸念事項があれば懸念事項に絡んだ夢を見る素直な脳みそをしている。

……うわ、暗い近況を書いてしまった!近況屋さんが来るぞ!近況屋さ~ん!

「は~い、近況屋です。本日はどういった近況をお探しで?なに?久しぶりに会う友達に話せるような明るい近況を?ございますございます。例えばこういうのはどうでしょう。

『毎日の散歩コースにいる野良猫が撫でさせてくれるようになった』/1000円

ささやかな幸せ、いいじゃないですか。お値段もお安くしておりますよ。なに?猫アレルギー?まあそういうこともありましょうな。ではこちらをどうぞ。

『最近行った美術館の特別展が良かった』/3000円

美術館に行く教養ある自分を演出できるお品でございます。特別展の名前等、細かい内容に関しましては別途ご用意してあります。ぜひそちらもセットでお買い求めくださいませ。」

近況屋さんというが、そもそも近況の相場が分からないからぼったくられてるかどうかも分からないぜ。消費者センターに電話しな。

私の好きな人たちが

私の好きな人たちが私のことを嫌いでなかったら他はどうでもいい。クラスの誰々ちゃんが最近調子乗ってようが何してようがどうでも。そもそも誰々ちゃんって誰だっけ?

とか言っていたのが中学の帰りの電車の中で、それを聞いた友人がすごいねって言ってくれたのを覚えている。今思うと何もすごくないし、クラスメイトの名前くらい覚えておいた方がいい。私はそういう中学生だった。

ただ、この「私の好きな人たちが~」のフレーズは今に至るまでじわじわ形を変えて何度となく思い返している。結局私の望みはここに集約されるからだ。この話はあまり人にしたことがない。かなりふわふわした話だけれど、今はこういう話が私に必要な時だと思うので、する。

私の好きな人たちが私のこと嫌いでなければ他はどうでもいい、の“他”に自分が含まれていることに気づいたのは大学生の時だ。自分のことも結構どうでもよかった。我が強いのにね。そうかな?自分のこと一生分からないな。とにかく、自分がこれから何をしていきたいかを考えた時に未来の自分の姿を全く想像できなかった。私の好きな人たちが私のことを嫌いでなかったらそれでよかった。私の好きな人たちは皆、健やかに未来を切り開いていける人たちなので残念ながらそこに私は不要なのだった。

だけどここ数年で「他はどうでもいい」の部分が変わってきた。他はどうでもいいと言いたい所だけど、その“他”に私の好きな人たちが大事にしたい人や物が含まれるかもしれない以上は大事にする。他がどうでもよくなくなってきたのである。他を大事にすることは巡り巡ってきっと私の好きな人たちの幸せに繋がるに違いない。自分を大事にするのはまだあまりうまくはないけれど、まあ、やります。やっていくので見ていてほしい。

あとは私を好きか嫌いかもどうでもよくなってきた。もちろん嫌われていたら悲しいが、だからといって私が好きな人たちを諦める理由にはならない。私の好きな人たちが私を嫌いでも、大事にしたいし幸せを願っていたい。だから今は私の好きな人たちが毎日嬉しくて楽しくて元気だったらそれでいい。そうであってほしいなと思う。もし元気じゃなかったら連絡してほしいし、私でなくとも誰かや何かに助けを求めてほしい。

私の好きな人たちへ。嫌なことはたくさんあるけれど、どうにか生き延びてください。勝手ながら応援しています。

高校の友人曰く“ウェットでロマンチスト”な私のお話でした。私のこと覚えてる?もうべちゃべちゃだよ。

マツケンとワルツを

決して死にたくはないのだけれど、自分がこの国でイキイキ生きている未来をうまく想像できない。最終的に社会のセーフティネットから滑り落ちる想像ばかりしてしまう。そうでなくとも不慮の事故でぽかっと死んでしまいそうで怖い……。死にたくないな……。でも人はいつか死んでしまうらしい。残念。特に残念なのは自分の葬式に参加できないことだ。自分の葬式なんて絶対楽しいに決まっているのに。お坊さんに頼んで木魚叩かせてもらお!それか教会でパイプオルガン弾いてもいいかもね。

何にせよ葬式をするなら、まず楽団を呼ぶ。音楽があるに越したことはないからだ。ジャンルは何でもいいけれど明るい方がいい。そうだ、マツケンを招いてマツケンサンバを踊ってもらおうかな。せっかくだしマツケンマハラジャも見たい。こうなってくるとマツケンと一緒に踊れないのが残念でならない。でも死んでしまったのだから仕方がない。私の分まで参列者に踊ってもらうことにしよう。

葬送の種類については今のところあまりこだわりがない。ただ火葬された自分の骨はちょっと見てみたい。どれだけの骨が残るのか分からないけれど、なんせ全身分あるのだから色々な楽しみ方ができるに違いない。遺骨を持ち歩くのもやるし、遺灰を海にまくのもやる。あとは遺灰をダイヤモンドにするのもやってみたいけれど、一番やってみたいのは遺骨の味見だ。他人の骨だと抵抗があるから、自分の骨でやるしかないと常々思っていたのだ。多分舌触りは良くないし味もしないんじゃないかな。美味しかったらまあラッキーくらいの気持ちでいる。

よくよく考えたら、棺の形とか棺に入る時用の服とか副葬品のことも考えないといけない。なんならフラワーシャワーとクラッカーもやりたいし、結構考えることが多くて大変だ。そもそも私の葬式に人が集まるのか……?でもマツケンが来るなら行くわと言ってくれそうな友人には何人か心当たりがある。じゃあいいか。最悪誰も来てくれなくても、きっとマツケンは私の死を悼んでくれるに違いない。マツケンが葬式で踊ってくれるなら私も生きるのを頑張ってみようかな。

遊ぼう!ウェディングドレス

私の好きな人たちが最近次々と結婚していく。結婚おめでとう!友人の1人として、あなたたちの幸せをこれからも祈らせてほしい。

それはそれとして、結婚や婚姻制度の話を聞くたびに私はウェディングドレスのことを思う。結婚のことをあまり自分事として考えられないけれど、布としてのウェディングドレスのことなら考えられるからだ(本当は社会全体の問題としてきちんと考えた方がいい)。というわけで今日は私が思うウェディングドレスの話をする。

ウェディングドレスは真っ白でふわふわだったりキラキラだったりスベスベだったりするから好きだ。何より動きづらそうですぐ汚れそうなのが最高。これを着て縦横無尽に遊び回ることが私のいつかやりたいことの1つである。およそウェディングドレスが汚れてめちゃくちゃになりそうなことは全部やる!よろしくな!

ウェディングドレスを着ることがあれば、まずは遊園地に行く。メリーゴーランドとジェットコースターには絶対に乗る。翻るドレスの裾に思いを馳せろ。オープンカーで街中をかっ飛ばす代わりにゴーカートに乗ってもいいかもしれない。私のヒールがアクセルを踏み抜く所を見てな!
遊び疲れたらソフトクリームを食べて、全身真っ白だって笑う。時間があったら観覧車にも乗ろうかな。室内がドレスでいっぱいいっぱいになって面白いかもしれない。動きづらいから時間内にうまく降りられなくてもう一周しちゃうやつだ。その時は笑ってほしい。

それで遊園地に飽きたら街中に出よう。できるだけ都会がいい。横断歩道を渡ってビートルズのあのジャケットの真似をする。本当は4人必要だけれど1人でも全然構わない。サングラスを買ってタピオカを飲む。適当に買ったオーバーサイズのTシャツを着てもいいかもしれない。ナイトプールとかクラブに寄ってもいい!ミラーボールの光を浴びるドレスはもうビカビカだと思う。

街から戻ってきたら、偶然通りかかった小学校のグラウンドで子どもたちとサッカーをする。砂ぼこりでぐしゃぐしゃになっても気にしない。私はウェディングドレスでシュートを決めた初の選手として学級新聞に載る。あとは私のことだから、公園に行ってブランコに乗るだろう。立ちこぎをしようとして危ないから止める。でも滑り台は滑るし、ジャングルジムのてっぺんでポーズもきめる。ピース。

最後は和室がいい。縁側でごろごろしなからみたらし団子を食べる。あったかいお茶を飲む。それでやっと今日は楽しかったな!ってドレスを脱ぐのだ。ウェディングドレスはもうボロボロのぐしゃぐしゃになっているだろうが、それでも白くキラキラと輝いているに違いない。今日1日私に付き合ってくれてありがとう……。

……本当はウェディングドレスを着てこんな風に動き回れないだろうし、最初のジェットコースターあたりで裾をレールに巻き込んで死んでいるかもしれない。私は臆病だから、実際着たところで汚すのが怖くて飲食すらできないかもしれない。まあそれでも、これだけやりたいことが出てくるくらい、私は魔法の衣装としてのウェディングドレスに夢を見ているのだ。ウェディングドレスにはこれからも頑張ってほしい。

お手元の風船をお取りください

『お手元の風船をお取りください』

変だけれど妙に嬉しい看板だった。確かに周りを見ると赤、白、黄色と色とりどりの風船が宙に浮かんでいる(そういえばしばらくチューリップを見ていない)。ここから選んでいいということだろうか。ど、れ、に、しようかな、神様の言うとおり!指は緑の風船を指していたけれど、それを手に取る気にはなれなかった。神様の言うことを聞く気なんて最初からこれっぽっちもないのである。風船だらけの空間を歩きまわりながら、体に触れる風船の感触を楽しんでいく。

……はい、決めた、決めました。やはり風船といえば赤じゃないでしょうか。つやつやの赤い風船を手に取って満足気に眺めていると、後ろから女の子がやってきた。女の子は看板をじっと眺めると弾かれたように走り出した。そしてピンク、水色、オレンジ……と軽やかに風船を手に取っていくのだった。これは衝撃だった。確かに1つしか選んじゃいけないとは書いていなかった!さっき赤と迷ったけれど青だって選んでよかったのだ。

気がつくと女の子の両手にはたくさんの風船が集まっていた。なんてほがらかに欲張りなんだろう。そういう気持ちの良さが私も欲しかった。そう思うとなんとなく今持っている赤い風船がつまらなく見えてきてしまう。風船といえば赤だなんて決めつけてしまってさ。女の子はとっくにいなくなっているのに、新しく風船を取ることもその場を立ち去ることもできなかった。未練がましく風船の紐を引っ張って遊ばせていると、どこからともなくアナウンスが聞こえてきた。

『時間切れです』

ぱちん、ぱち、ぱちぱちぱちん。あ~あ。こんなことなら……。こんなことならどうしていれば良かったんだろう。分かっているのは自分はつまらない人間ってことだけだった。